2011年12月28日水曜日

AKB48握手券の偽造は「無罪」か「重罪」か


AKB48握手券の偽造は「無罪」か「重罪」か
プレジデント 12月21日(水)10時30分配信




■有価証券

ミリオンヒットを連発するAKB48。前回『AKB人気の秘密は「法律スレスレ」にあった』では、投票券つきCDが抱き合わせ販売にあたるかどうかについて取り上げたが、今回は、同じくCD特典としてついてくる握手券の法的問題について取り上げる。

握手券をめぐっては、2010年8月、メンバー2人の名前が入ったゴム印を作って握手券15枚を偽造し、他のファンに売ろうとしたという事件が発生。この男性、懲役1年6カ月、執行猶予3年の有罪判決を受けた。
まさにAKB48の人気に便乗した犯罪だが、注目したいのは、その罪状だ。男性が問われたのは、私文書偽造罪ではなく、「有価証券偽造罪と同交付罪」というより重い罪。刑法は「行使の目的で、公債証書、官庁の証券、会社の株券その他の有価証券を偽造し、又は変造した者は、3月以上10年以下の懲役に処する」(162条1項)と定めている。裁判所は握手という単なる「挨拶」を「権利」として認め、握手券は有価証券だと判断したことになる。

たしかに握手券はネットオークションで取引される場合がある。しかし、アイドルに興味のない人にとっては単なる紙きれにすぎず、有価証券といわれてもピンとこない。はたして有価証券とそうでないものの境界線はどこにあるのか。荘司雅彦弁護士は次のように教えてくれた。
「ひとくちに有価証券といっても、商法と刑法で定義が異なります。まずその違いを理解することが大切です」

商法では、財産的価値のある私権を表章し、権利の発生、移転、行使について証券が必要なものを有価証券とする説が一般的だ。一方、刑法上は、「財産上の権利が証券に表示され、その表示された権利の行使につきその証券の占有を必要とするもの」(最判昭32.7.25)という判例がある。さっと読んだだけではよくわからないが、違いは「紙きれに権利がくっついて不可分かどうか」(荘司弁護士)という。
「株券や小切手といった典型的な有価証券は、それを紛失すると財産権も同時に失います。このように財産的な債権が紙と一緒にくっついて移転するものは、商法・刑法とも有価証券です。ただ、なかには紛失しても再発行できるものもある。この場合は権利と紙が必ずしも不可分ではなく、権利を行使するときにその紙があればいい。この種の証券は、商法上、有価証券とみなされませんが、刑法では有価証券の扱いになります」(同)

こういったものを含め、商法では除外されるが刑法上有価証券になるものを具体的にあげると、電車の乗車券や定期券、デパートの商品券、入場券、宝くじなど。アイドルの握手券も同じで、商法上は有価証券ではないが刑法上は有価証券になる。株や小切手とは一線を画すものの、偽造すると有価証券偽造罪に問われるのはこのためだ。

では、刑法上で有価証券とみなされるのはどこからなのか。荘司弁護士がグレーゾーンとしてあげるのは、ファストフード店で配る無料コーヒー券だ。
「使えば安くなるので、紙に財産上の権利はくっついています。しかし、誰でも簡単に手に入るため市場性は限りなく低い。それに財産的価値を認めるかどうかは微妙なところ。お金を払ってでも手に入れたい人がいる=市場性があるというところが分水嶺になるのではないか」。

ちなみに有価証券でなくても、権利を行使する目的で文書を偽造すれば、私文書偽造等の罪(刑法159条)に問われる。たとえば預金通帳や個人的な借用書、手荷物預かり証は有価証券ではないが、使用する目的で偽造すれば犯罪行為。法定刑も3月以上5年以下で、有価証券偽造罪ほどではないが、けっして軽くはない。握手券が有価証券でなかったとしても、偽造をすれば罪になる恐れがある。アイドルと握手したければ、素直にCDを買ったほうが身のためだ。


引用元:プレジデント

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